バイト先のママ

俺は高校を卒業してから働き出したのだが、はじめのうちは稼ぎが少なくて貧乏生活を強いられた。副業でバイトでもせな生きていけんという状態だった。で、はじめたのがスナックのボーイのアルバイトだ。俺の同僚がそこのママと知り合いでな、俺を紹介してくれて、同僚と一緒に働くようになったのだ。

当時の俺は酒が大の苦手でな、酒焼けしたママの声を聞くだけでも正直良い感じは無かった。だが、そんなのは働き出して1週間ほどでどうでも良くなった。ママの人柄が素晴らしかったからだ。口は悪いのだが、本当に優しい人で、俺が金に困ってるというのを知っていたママは、よく飯をおごってくれたもんだった。仕事が遅くまでかかってしまったときなんかは家に帰らずともよいように、ママの家に俺と同僚のためにとわざわざ一部屋あけてもくれた。忙しい時期は、家に帰らずそこをベースの寝床として生活していたもんだ。

ママは早いうちに旦那を亡くしてしまい、子どももいなかった。自分の実家は遠く離れた田舎。近くには旦那の実家があるものの、亡くして以降、訪ねにくくなってしまったとのことだ。つまりママは1人で生きている状態だった。最も、ママ自身はそんな状況を苦ともせず、楽しんで生きていた。強がっていたのではなく、本当に楽しんでいたというのが俺らには何となく分かった。泣いてるところ、落ち込んでいるところは一度も見たこと無かったからな。

ママの所には19~23歳までの約4年間、お世話になった。仕事の収入が安定し出し、転勤が決まってママとはさよならした。少しは別れを寂しんでくれるもんかと思いきや、早くも俺や同僚に変わる若い男を捜すのに夢中なようだった(笑)。「元気でな~」と笑顔で見送られてそれっきりだ。それから約15年か、1度も会ってない。会いたいかっていう気持ちも、あまり無かった。嫌いになったわけではないのだが。

しかしだ、つい先日、なぜかママのことが頭に浮かんで離れなかった。朝起きたらママのことが頭に浮かび、それからずっと気になり続けた。それで、「今もまだ店やっとるんかなぁ……」と、近いうちに顔を見に行ってみようかとも思うようにもなった。

そんな時だ。同僚から驚きの知らせが入った。「お前知ってるか? ママいたやろ? この間亡くなったらしいで……」と。俺は驚いた。ママが亡くなったのもそうだが、俺がママのことを考えた日に、ママは亡くなったということにも驚いたのだ。単なる偶然とは思えなかった。もしかしたらママが俺のところにあらわれたのかもしれない。俺が思っていた以上に、ママは俺のことを可愛がっていてくれたのかもしれない。だとしたら、俺は15年も顔を出さなかったなんて、酷いやつだ。

正月は久しぶりに向こうに帰ろう。生きてるママには会えないが、墓参りをして当時を懐かしんでこよう。それから「ごめん」って。

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